五箇山 〜小さな世界遺産の村〜 The World Heritage -The Historic Village of Gokayama-
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建築学

合掌造り=生きるということ

 

 合掌造りの特徴について、解剖図録の方でも触れましたが、ここではより具体的に合掌造りの構造について見ていきましょう。
 一見すると、菅沼、相倉、荻町の3つの集落にある合掌造りはすべて同じつくりになっていると思いがちですが、その地域ごとの特性を生かした建築構造になっています。
 まず、切妻造りの茅葺き屋根の勾配ですが、菅沼集落や相倉集落の合掌造りは荻町と比べ、勾配が若干急になっています。これは、同じ豪雪地帯といっても、荻町で降る雪が軽いのに対して、菅沼・相倉の五箇山地方の雪は湿気を多く含み重いため、少しでも屋根から雪が落ちるよう考慮されています。
 また、五箇山地方の合掌造りは、茅葺き屋根の端の部分(破風、ハフといいます)が丸みを帯びていることも特徴のひとつです。
 さらには、家の入り口が妻側(合掌造りの手を合わせた形に見える方が正面)にある「妻入り」構造なのは菅沼集落のみで、その他の地域は平側(屋根が見える方が正面)に入り口のある「平入り」構造となっています。



ウスバリとハネガイ

 合掌造り家屋の大きな特色のひとつは、柱や桁、梁で構成される軸組部とウスバリ(シキゲタともいい、合掌造りの三角形の底辺を構成します)上の小屋組部が、構造的にも空間的にも明確に分離されていることです。三角形の内部はさらに2つに区切られ、下から「アマ」「ソラアマ」と呼ばれます。
 日本の一般家庭では、このアマとソラアマの部分を柱が屋根まで貫き、内部は吹き抜けになっている場合が多いのですが、これに対して合掌造り家屋は、軸組部を先に組み上げ、その上に小屋組部を組み上げる構造となっており、軸組部と小屋組部は構造的に明確に分離されています。なので、吹き抜けになることはありません。これらのことは、他の地方には見られない合掌造り家屋の大きな特色です。
 この軸組部と小屋組部の明確な分離は、合掌造り家屋の建築の方法に関わりがあります。
この地方では、軸組部は専門的な技術を持った大工の仕事なので、軸組部は丁寧な組み上げが可能ですが、礎石の据え付け、小屋組部と屋根の材料の確保、加工、組み立て、葺き上げは、伝統的互助制度の「結(ユイ)」で行われることになっているので、小屋組部と屋根に関しては、丸太材のまま斧や手斧による粗い仕上がりとなり、部材の組み立ても、縄や木の蔓などで結ぶだけの簡単な構造になっています。また、軸組部については建築の費用が必要ですが、小屋組部と屋根については現金収入の少なかった山村の経済条件から結のような互助制度によって組み上げるという生活の知恵が生かされています。このような、軸組部と小屋組部という、専門的な仕事と相互扶助による仕事が明確に分離されているのも、この地方独特のものと言えます。


ハネガイ

合掌造り家屋の三角形の両辺、屋根の部分を構成する「合掌材」は先端が細く削られ(合掌尻といいます)、ウスバリの両端に明けた穴に差し込みます。これは「ピン構造」といい、屋根からかかる重力を軸組部へ伝え、家屋を安定させ、地震や雪荷重から守るしくみとなっています。

チョンナバリは曲梁といい、雪深い急傾斜地のために根元が曲がって成長した樹木を利用したものであり、土地の気候風土によって得られる資材を有効に利用しています。また、構造力学的にも優れており、雪荷重に耐えられるようになっています。

地震や風に対して家屋の強度を増すために、柱と柱の間に斜めに入れる材のことを「筋かい」といい、とくに合掌造り家屋では「ハネガイ」「コハガイ」と呼びます。
 合掌材に対して「ヤナカ」と呼ばれる材が直角に取り付けられ、格子状になったところに、斜めにハネガイが取り付けられます。格子状の合掌材とヤナカの間を縫うように、弓なりに渡していきます。こうすることで、合掌屋根全体の剛性が高まり、かつ横からの衝撃過重に大しては柔軟に対応する構造になっています。

 屋根の頂部を棟といいますが、合掌造り家屋の棟は水平でない場合が見られます。その理由は、水平な場合、雪の重みで棟が沈みやすくなり、あらかじめ上向きのそり(上にふくらんだ形)がある方が、棟の雪過重などによる痛みは軽減されます。
 また、錯覚補正の意味でも、棟に上向きのそりがあるのは適切な方法とされています。目の錯覚により、上にふくらんだ棟の部分がまっすぐに見えます。また、両妻面が外側に倒れかかることで、棟木にもある程度の張力が働き、丈夫な構造体を構成しています。外側に張り出した屋根部分は、雨や雪よけとしての機能も持っています。

【茅葺き職人の話より】

 合掌造りのもっとも特徴的な部分といえば、茅葺き屋根ですが、この屋根の葺きかえにはたくさんの人手が必要となり、昔はユイですべての作業を行っていました。
 茅葺きの手順は、まずは茅を刈るところから始まります。菅沼では秋に茅を刈り、雪垣にして冬を越します。そうすると春までにちょうど乾燥し、茅葺きの作業に取りかかることができます。五箇山地方の中でも茅の質や気候にも若干差があるので、秋に屋根の葺きかえを行う地域もあります。
 茅葺きはユイの人々が朝から集まり、一日かけて行います。まずは、屋根をむく作業から始まります。その後足場を組み、一服した後、屋根葺きに取りかかるわけですが、葺きかえ前の古い茅の選別をし、良い茅とそうでないものとに分けていきます。良いものはそのまま屋根に残し、悪いものをむいていきます。古い茅の中でまだ質の良いものは、新しく葺きかえる茅に混ぜ再び葺きます。古い茅が混ざったものは、屋根の上の方に葺きます。屋根の上から3分の1までは水切りが良いため、腐りにくくなっているからです。屋根の真ん中から下にかけては非常に腐りやすくなっているため、新しいものに葺きかえます。
 屋根は片面を3つに区切り、両面で6区画できます。これを1区画ずつ葺きかえていきます。葺きかえは、屋根の下から上に向かって行います。形を整えた茅の束を屋根の妻(ハフといいます)の隅に結束します。これを「ハフジリ」といいます。ハフジリによって軒に連なる茅の角度が決定します。ハフを葺くのは上手な者でなければならないので、ユイで集まった人々の中でも職人がこの部分を担当します。
 ハフジリに沿って、屋根の軒の部分を葺いていきます。この部分を「オジリ」といいます。このオジリによって屋根の厚さが決定します。
 そして、一番広い屋根の面の部分(ヒラ)を葺いていきます。古い茅と新しい茅が混ざる場所を「葺き合わせ」といい、この部分を上手に葺かないと雨が入ってしまいます。この新旧の茅が接する境目とハフとの境目がよく馴染むように葺いていきます。
 最後に屋根の上部(ムネ)に短い茅を葺き、さらにその上から長い茅を折り曲げて頂上部を包むように葺いていきます。
 ここまでが1区画の作業となり、これをあと5回繰り返して、屋根の葺きかえは終了します。丸1日かけての作業ですが、途中で雨が降ってもとにかくその日のうちに仕上げなければなりません。雪が降っても、いったん屋根をむいたら最後まで葺きかえなければ、むき出しになった部分が腐ってしまうからです。
 屋根葺きが終わるとご馳走でもてなされ、作業の疲れを癒します。広い屋根を1日で、かつ天候の様子を見ながら葺きかえる作業は、ユイの人々の協力があってこそできたのです。